Cash Balance(CB)という企業年金プランがある。確定給付型(DB)と確定拠出型(DC)の両方の要素を持つため、ハイブリッドプランの一つとも言われる。
CBの特徴をリストアップすると次のようになる。
ご覧のように、多くのDC的要素が含まれているにもかかわらず、税制上はDBに分類されている。これは筆者の推測だが、他のハイブリッド・ブランの分類状況を見ても、企業年金プランの税制上の分類は、加入員個人の投資指図ができるかによると考えておいてよさそうだ。
- Internal Revenue Code(IRC)上の扱いは、DBプランである。従って、PBGCに支払保証制度保険料を支払わなければならない。
- プラン資産の運用は、企業側で行い、加入員個人による投資指図はできない。→DB
- 仮想的な個人勘定を設け、ある時点での累積値が従業員にわかる。→DC
- 勘定に累積されるのは、企業による拠出ポイント(pay credits)と利子ポイント(interest credits)である。→DC
- 企業による拠出ポイントは、給与の一定比率とするのが一般的。→DC
- 典型的なDBの年金額は、最終給与平均、勤続年数により算出されるが、CBの場合は、拠出ポイントと利子ポイントの累積により算出される。従って最終的な年金額(一時金)は、運用実績により左右される。→DC
- 退職前に離職した場合でも、仮想個人勘定の累積ポイントによって算出された一時金を受け取れる。→DC
そのCBプランだが、25年前、Bank of America(BOA)が最初に導入したと言われている。当時、BOAは、典型的なDBプランを持っていた。そのプランでは、年齢+勤続年数が75を越えると、給付額が急増するように設計されていた。制度が成熟してくると、年金給付、拠出に関するコストが急増するようになり、また、勤続年数の短い従業員のインセンティブは著しく低いものとなった。コスト急増を回避するため、年齢+勤続年数が75に近づくと解雇されるという問題も発生した。このようなコストの急増や若い従業員のやる気という問題を解決するため、BOAはCBプランを導入したと言われる。
CBプランでは、給与の一定比率を拠出することになるため、給付額のカーブがなだらかになり、コストの期間配分がスムーズになる。また、勤続年数が短い従業員にとっても働きに応じた累積が行われていくことから、DBプランよりもインセンティブが働くことになる。しかも、離職時に一時金として受け取れるのであれば、DCプランと似た感覚で加入できる。
このような観点から、90年代、大企業では、従来のDBプランをCBプランに移行する例が増えてきた。いくつかの調査結果を引用すると、Fortune 100のうち33%(Watson Wyatt)が、またFortune 1000のうち19%(GAO)がCBプランを導入している。税制もこの動きを促進した。税制上、DBプランを廃止してDCプランに移行しようとすると、移行時点での積立超過額は国庫に納付しなければならない。しかし、CBプランはDBに分類されているため、CBプランへの移行には、この規定は適用されず、積立超過額をプラン内に温存できることになる。従って、DBから一気にDCへの移行は行わず、まずCBに移行するという動きが増えたわけだ。
ところで、先ほど、CBプランの給付額のカーブがなだらかになると書いたが、DBからCBに移行すると、割りを食うのが勤続年数の長い、中高年層だ。旧来のDBであればもっと高い給付額が得られたはずなのに、CBに移行すると給付額が減額してしまう。さらに、DBプランのもとでvestされた(受給権が付与された)給付額は移行により減額できないものの、移行時点で旧来のDBプランで約束した給付額(A)よりも新規のCBプランでの給付額(B)の方が低ければ、CBプランのカーブにそってBがAに等しくなるまで企業側は拠出しなくてもよい("wear away")とするのが一般的であった。
このため、怒った中高年層の従業員は、DBからCBへの(上図のような)移行は、年齢差別禁止法に抵触するとして、EEOCに対して次々と申し立てを行った。企業側では、CBの適用を新規加入者のみにする、DBプランとCBプランの間で加入の選択を認める、中高年層に移行に伴う減額分を補填する、などの対策をとってCBに移行するものもあったが、IBMの事例のようにこの移行が社会問題化したため、IRSでは、この3年間、DBからCBへの移行の認可をストップし、新たな移行ルールを検討してきた。
上記Sourceは、IRSが発表した新規移行ルール案であり、今後3ヶ月間、public commentsを求めた後、公聴会等の手続きを経て、順調にいけば、来春、適用となる予定である。
新規移行ルールの中で、年齢差別禁止法に関連するポイントは、次の2点。
- Wear awayは、年齢中立的に拠出が行われ、適切な利子ポイントが付与される限り、年齢差別禁止法に抵触しない。
- 年齢が高い従業員への拠出率(給与の一定割合)が、より若い従業員への拠出率より低くなければ、年齢差別禁止法に抵触しない。
このように、企業よりの解釈が示されているため、今後議論が沸騰することは間違いない。
日本では、確定給付企業年金法により、DBプランの一つとしてCBプランが認められることになっている。DCプランの導入を議論している際、従業員に運用指図を任せるのは不安なので、まずはCBプランを導入してから、という議論も一部行われていた。しかし、お気付きの方も多いと思うが、日本の退職年金プランには、CBプラン的な要素が既に導入されている。「ポイント制」と呼ばれるのがその制度である。ポイント制は、退職一時金制度、DBプランで導入することが可能となっている。具体的には、給与や職位などに応じて、毎年従業員個人にポイントを与えていき、退職する時点で、累積ポイントを一定の換算率で現金化するというものだ。
日本では、不利益変更はまかりならぬ、というよくわからない慣習があるために、ポイント制の導入には時間がかかるものの、従業員全体の意欲の向上、成果主義の部分的導入という狙いもあり、多くの大企業は導入済みである。逆に言えば、こうした下地があったからこそ、DCプランの導入も一気に進んでいる(今年秋で約700社が導入)ものと考えられる。
アメリカの労働組合というと、企業の枠を越えた労組連合が強力な団体交渉力を保持し、時には企業経営を脅かしかねない場合もあるとの印象がある。21世紀にもその影響力は依然として続くのであろうか。また、先進諸国における労使関係は、欧州型と日米型とに大きく分けられるのではないか。今後の日本における労使関係は、どのような方向を目指せばよいのか。そのような観点から、アメリカの労働組合の組織率、構成、現代的役割についてまとめてみました。以下、その要旨です。
アメリカの労働組合の組織率は、20世紀後半から低下傾向が続いている。特に、民間部門では、現在、加入率でもカバー率でも10%を切っている。そのように組織率が低下した主な理由としては、@就業構造の変化、A全国労働関係法の改正、B国際競争の激化、C雇用機会均等委員会(EEOC)の活動、D労働組合幹部への反感、などが考えられる。本文「アメリカの労働組合の現状」(PDF)へ
また、産業横断的、職業横断的労組連合(leadership unions)の社会的プレゼンスは依然として大きいものの、実質的な労使交渉は、個別労働組合(membership unions)が中心になって行っており、leadership unionsはそれらを側面から支援しているに過ぎない。
組織率は低下しつつあるものの、アメリカの労働組合は、民主党議員への政治資金提供により、政治力を確保する一方、従来の労組の枠組みを越えて、非組合員へのベネフィットに関与することにより、労組の活動範囲を広げており、依然として社会的に重要な勢力として位置付けられている。
このようなアメリカ労働組合の現状は、、現在の日本の労働組合が置かれている状況と似ている部分がある。特に、組織率については、欧州諸国と日米との間には、構造的な相違点が存在すると言えよう。
今後の日本企業が、健全な労使関係を維持し、国際競争に耐え得る力を確保するためには、まずもって、企業別組合との関係を一層重視していくべきと考える。アメリカ企業の労使関係に較べても、この点は日本企業の利点と考えておくべきだろう。
また、企業側にとって、労働組合は、報酬制度、人事制度に関する従業員の意見を集約する機能を果たすことになるため、コスト的にも望ましいと考えられる。
一方、労働組合の組織率低下が今後とも続くと見られることから、従業員個人が職場で遭遇する問題(不当差別、セクハラ等)について、公的な解決の場を確保、提供することがより重要になってくると考えられる。「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づく都道府県労働局長による助言及び指導、紛争調整委員会による斡旋スキームの質的充実が望まれるところである。
12月13日、いよいよUALの債権者会議が始まった。報道によれば、この日、シカゴのホテルには300の債権者代表が集まったそうだ。いずれも、自らのUALに対する債権をできるだけ多く確保するために、情報を得たい、さらには、無担保債権者委員会(the Unsecured Creditors Committee)に指名されたいと希望する債権者達だ。
結局、この日、無担保債権者委員会の医院に指名されたのは、次の14者であった(ただし、the City of Chicagoには、投票権はない)。
UAL無担保債権者委員会メンバー Pension Benefit Guaranty Corporation 連邦政府機関(支払保証公社) Association of Flight Attendants 労働組合 Air Line Pilots Association 労働組合 International Association of Machinists 労働組合 The Bank of New York 金融機関 Airbus North America Holdings, Inc. 航空会社 Pratt & Whitney 部品メーカー HSBC Bank USA 金融機関 US Bank National Association 金融機関 R Squared Investment, LDC 投資会社(?) Deutsche Lufthansa AG 航空会社 Goodrich Corporation 部品メーカー Galileo International, Inc. 旅行業者用システムの提供 *The City of Chicago 地方自治体
この無担保債権者委員会のメンバー表を見ていて、気付いた点は次の3点だ。
このように、債権者委員会のメンバーは、必ずしもUALの迅速な再建に、必ずしも積極的とばかりは言えないように思える。
- 労働組合が3者も入っている。ESOP(除くAFA)や取締役会への参加などで、労働組合のステークホルダーとしての関心度が高かったのは確かである。報道によれば、過去にも労働組合が債権者委員会に参加したケースはあるらしい。賃金の抑制と引き換えにESOPにより資金を提供してきたことを考えれば、ある意味当然かもしれない。しかし、逆に言えば、UALの経営をうまく導き切れなかった当事者であり、今後の雇用条件、レイオフ等による人員整理などのことを考えると、再建計画の阻害要因となりかねない。かなり、思い切った選択といえるだろう。
- 投票権はないとはいえ、シカゴ市という地方自治体がメンバーとなったことは珍しいのではないか。UALはシカゴに位本拠地を置いており、その行く末は雇用問題など地元経済への影響が大きいということなのだろう。しかし、これも、UALが清算されることには大いに抵抗するだろうが、大量解雇などにも強く反対するのではないだろうか。この選択も、再建計画の阻害要因となる可能性がある。
- そして、何と言っても一番驚いたのが、PBGCの参加である。確定給付型の企業年金(DBプラン)を持つ企業が倒産した場合、PBGCがそのプランを引き取って、給付等の業務を継続することになる。その際、積立不足があれば、PBGCが補填する。その財源は、支払保証制度の保険料だ。UALが再建されたとしても、PBGCがそのDBプランを引き取らざるを得なくなる確率が高い。その際、可能な限り、UALの資産をDBプランの積立不足に充てさせるようにしたいはずだ。昨年倒産したEnronにもDBプランはあったが、PBGCはその無担保債権者委員会には参加していなかった。Enron倒産後のPBGCによる調査でDBプランに大穴が空いていたことが判明し、その金額は、最低でも1億2500万ドルにのぼると見られている(Topics 「3月4日 Enron確定給付年金もめちゃくちゃ」参照)。今回のPBGCのメンバー参加は、その反省に立つものと見られる。
ただし、UALが存続してもDBプランを継続する可能性は低くPBGCにとって、UALの再建、存続はあまり興味はないはずだ。むしろ、現存の資産を売却して資金を捻出する方向に動かそうとするのではないか。そういう立場の機関がメンバーになっていると、再建計画の認定にはかなりの障害となろう。
なお、UALのChapter 11ケースを観察するために、次のサイトが便利なので、ご参考まで。UAL Bankruptcyまた、ESOPに関するコメントのクリップを追加しました。
AFA Bankruptcy Information Center
US Trustee (REGION 11)
United States Bankruptcy Court for the Northern District of Illinois
16日、PBGCが、Chapter 11による再建途上にあるBethlehem Steel(BS)のDBプランを、18日にも強制終了すると発表した。もし実現すれば、PBGC史上、最大規模の年金プラン終了、引き取りとなる(Topics 「3月31日 鉄鋼業界のための支払保証制度」参照)。PBGCの推計によれば、BSのDBプランは、給付債務78億ドルに対し、35億ドルの資産(45%相当)しか有していない。積立不足43億ドルのうち、PBGCが37億ドルの穴埋めをして、引き取ることになる。
もし、PBGCによる年金プランの強制終了、引き取りが行われれば、BSの退職者または受給資格を有するBS従業員は、一定の上限以内の年金額が保証されることになる。この上限額を超える年金を受け取っていた人、早期退職者などについては、上限額まで削られることになるが、それでも、45%の積立分しかない場合に較べれば、どれだけ多くの年金額を受け取れるようになるか。外部から見ていると、充分すぎるくらいの措置に思える。
ところが、当事者達は、不満たらたらということのようだ。
まず、労組だが、拠出は法定通り行われており、BSのキャッシュ・フローも改善している。また、再建途上の段階で、年金プランを強制終了するのは時期尚早であると反発している。PBGCが本来守るべき勤労者の年金を、穴埋め金額を極小化するために終了しようとしている、と非難している。実は、10日前のPBGCによるNational Steelの年金プラン終了、引き取りについても、同様のコメントをしている。
一方、経営者側だが、これまた、労組と同様、強制終了の時機ではない、として、18日の強制終了、引き取りを延期するよう、PBGCに求めていくこととしている。特に、BSの買収を検討している企業に悪印象を与えるのではと懸念しているようだ。年金が途中で終了することになれば、退職者や退職間近の従業員はともかく、働き盛りの中堅層、若年層の従業員のやる気が一気に失せ、事業の継続が困難になり兼ねないということらしい。事実、買収を検討している企業は、このニュースについて、"This is a new, wildcat negative factor" と評している。
本件についても感想を3点。
第1は、経営側も労組も、どこまで甘えれば気が済むのか、と問いたい。既出の表の通り、これまでPBGCが使ってきた穴埋め資金のうち、半分は鉄鋼メーカーの年金プランに使われいている。他の業界の企業にしてみれば、鉄鋼だけで支払保証制度をやったら、と言いたくなるだろう。多少削られたり、自分達の予想に反して年金プラン終了が早まったくらいで、ごたごた言わないで欲しい。
第2は、なぜ経営側が、それほどPBGCを非難しなければならないのかがよく理解できない。確かに、現役従業員のやる気は多少失せるかもしれない。しかし、43億ドルもの資金不足が一気に解消するわけだし、新しい経営者にしても、お荷物が減ってよかったのではないのか。穿った見方をすれば、労組が反発しているので、表面上PBGCを非難しているのかもしれないが、それよりももっと可能性があるのが、買収価格の上昇である。年金債務付きなら二束三文だったのが、年金債務が消えれば、その分、買収価格は上がらざるを得なくなる。もともと買収を検討している企業は、安く買って事業整理を行い、後にできるだけ高く売り捌こうということだろうから、その原価があがってしまうことになる。そのため、買収交渉に不利になるというわけなのだろう。
第3は、Chapter 11による再建とPBGCは利益相反の関係になる可能性が高いという実例になるということだ。PBGCとしては、資金が潤沢にあるわけではなくなっているため、引き取りが回避できないとなれば、できるだけ穴埋め額を小さくしたい。再建途上の企業は、キャッシュ・フローが必ずしも充分あるとは限らないため、積立不足額が増大していく可能性が高い。早期退職者も予定以上に出てくる。従って、PBGCとしては、なるべく早く年金プランを終了させ、支出を最低限に抑えたいという動機が働く。
PBGCの判断基準は、明らかに、「支出の抑制≫企業の再建」である。このような判断基準を持つPBGCが、UALの無担保債権者委員会のメンバーになっている。債権者委員会で、PBGCはどのような行動を取るのか、果たしてUALの再建に本当に協力できるのか、Chapter 7(清算)への移行を狙ってくるのではないのか。興味の尽きないところである。